これまで相続トラブルと言えば、複数の法定相続人間で遺産分けの協議がまとまらない「争族」が主流でした。ですが、最近、もめようにも「相続人が誰もいない」、遺産が宙に浮いてしまうトラブルが目立つようになりました。遺産はどうなってしまうのでしょうか?

 2020年時点で、生涯未婚率は男性の28%、女性の約18%と上昇を続け、独身の方が増えており、一方で合計特殊出生率は1.15を割込み、結婚しても子供がいない、一人っ子も当たり前という時代。たとえ親類縁者はあっても、これまでの①夫婦②子供③親④兄弟を中心とした「法定相続人」の枠の中に収まらないケースが珍しいものでは無くなっています。
 例えば相続人不在の場合、遺産はどうなってしまうのでしょうか?
 
■ 相続人不在
 最終的に国のものに。2022年には768億円が国庫に帰属しています。でも黙って国に移るのではなく、アクションが必要。遺産が放置されて困る利害関係人や検察官から家庭裁判所にまず「相続財産清算人」選任の申立てをし、清算人が相続人・債権者を捜索する公告をし、清算がなされた上で国庫に帰属することになります。申立には、手続き、時間、費用の大きな負担がかかります。親類が入院費など支払いを立て替えても、これだけの手続きを経なければ精算できず、たとえ生前にお世話をしていても、上記手続きの上で、特別縁故者として財産分与の請求を申立て、それが認められることがない限り、遺産において無関係です。「困ったときはお互い様」を実現するのがこれだけ困難に。そして、相続のみならず、どんなに普通に社会生活を送り、親族友人関係を築いてきても、大事な人に「つながる」ことができななければ、それが「孤独死」を生むのです。
 
■ 家族のかたちは様々
 そもそも、結婚の有無、子供のいるいないに関わらず、生き方が一人一人にあるように、家族のかたち、相続のあり方はまさに「多様」。法律にしばられ悩む必要はありません。むしろ、法律を積極的に利用し、自分自身で家族のかたち、相続のあり方を決め、大事な誰かと「つながる」こと。これは誰しもにとって必要であり、「できる」のです。遺言があれば「遺贈」により、お世話になった親族に財産を残してあげることもできる、寄付を考えることも自由です。
 
■ 自分の意思で、新しい時代の変化に柔軟に
対応していくことがますます求められます。私たちもこれからも、自分と家族が笑顔になれる法制度を発信し、皆さまとご一緒に考えてまいります。

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