今年4月1日から相続登記が義務化され、みなさまの関心も高まり、お問い合わせやご相談が増えています。「夫が亡くなった後も、自宅の名義はずっと夫のまま」が通用しなくなった、ということは大分浸透してきました。実際、相続登記を完了しなければ、大事な不動産を資産として売却することもできませんし、次世代にきちんと引き継ぐことも難しくなります。登記制度はまず自分自身の権利を守るもの、安心のためにあるということを改めて確認していただく大きな契機となったと思います。
ただ、相続登記をしたくてもできない、ということが問題です。
遺言がない相続は、法定相続人の共有状態になってしまいます。相続登記をするには、まず①法定相続人が誰なのかの特定から始まり、②法定相続人全員の合意=遺産分割協議を取りまとめる必要があるのです。手続きだけで一苦労、誰が取りまとめるのか、結果争いになって相続登記を放置せざるをえなくなっていくというのが現状です。
こうしたことを背景に、最近多くご相談をいただくのは、「だいぶ前に父が亡くなり相続登記をしないでいる内に、相続人が次々に亡くなってしまった」という数次相続のケースです。いつの間にか、相続が二重三重に膨れ上がり、思いがけず相続人が(それも疎遠な)増えてしまったり、逆に自分自身が複雑な相続に巻き込まれてしまうのです。確かに、超高齢化社会は多死時代を迎えることでもあり、2000年には96万人だったご相続の件数が、昨年には157万人、2040年まで増加傾向にあると推計されています。複雑な相続問題が一気に降りかかることは、誰しも他人事ではないのです。こうした事態を「市役所からの固定資産税の知らせで初めて知った」というご相談も多くあります。
中でも難しいのが、「行方不明の相続人」がいる場合です。遺産分けの話し合いができないため、家庭裁判所に手続きをとって、行方不明の相続人のために「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があるのです。
ただし、この点民法が改正され、相続開始から10年を経過している場合には、別の解決方法を選択できるようになりました。裁判所の決定を得て、他の相続人が、行方不明の相続人の持ち分を取得したり、共同で譲渡するという方法です(所在不明共有者の持分の取得)。これにより、遺産対象である不動産に絞った解決ができるようになりました。昨年4月1日から施行され、利用例も出ており、これまで長期間悩んできた方にとっては、解決の途が拡がったと言えます。
とはいえ、これらはいずれも問題が起きてしまった後のこと。根本的な解決は自分自身が「遺言」で備えること、それが当たり前になる社会です。今その過渡期にある中で、問題が生じたときには、いつでもご相談ください。場合によっては相続放棄の検討も含め、安心に添えるよう一緒に考えてまいります。